「モルとショハムは、手術用ロボティクスのゴッドファーザーだ」
ForSightの創業者たちは、イスラエルの工科大学テクニオンで出会い、同社を創業した。テクニオンのロボティクス研究所の元所長で名誉教授のモシェ・ショハムは、以前にも脊椎手術に特化したロボティクス企業Mazorを共同創業し、2018年にMedtronic(メドトロニック)に16億ドル(約2304億円)で売却していた。
一方、外科医であるネイサン医師は、同大学発のヘルスケア技術の事業化を手がけてきた人物で、他の手術領域でロボットが活用されているにもかかわらず、眼科の手術用ロボットが存在しないことに疑問を持ち、ショハムに声をかけたという。ふたりはその後、ショハムの下で学んでいた元学生で、メドトロニック傘下のラボで研究開発(R&D)責任者を務めていたダニエル・グロズマンとともに、2020年にForSightを設立した。
「イスラエルの医療機器分野で成功している企業の多くはモシェの研究室から生まれている」と、ForSightの資金調達を主導したEclipseのパートナー、セス・ウィンターロスは述べている。「フレッド(モル)とモシェ(ショハム)は、手術用ロボティクスのゴッドファーザーだ」
2021年3月ForSightは、精密でコスト効率の高い眼科手術を可能にする手術用ロボティクスプラットフォームの開発資金として、Eclipse主導で1000万ドル(約14億4000万円)のシード資金を調達した。Eclipseのウィンターロスは、同社の名誉パートナーで半導体やディープテック分野で高名な投資家、ピエール・ラモンド(94)とともにこの投資を実施した。
白内障手術は、採血を除けば、頻繁に行われている医療処置
「白内障の手術よりも多く実施されている医療行為は、採血しかない」とモルは述べている。本稿冒頭で触れたように、白内障の手術は米国だけでも毎年400万件以上が行われるほど処置件数が多く普及している医療行為にもかかわらず、これまでロボットが使われてこなかった。
モル自身も数年前に眼科用ロボットへの投資を検討したが、当時はレーザーを使った新しい白内障手術が注目されており、それが手術の質を高めると期待されていたため、あえて投資を見送った経緯がある。それでも今あらためて見れば、高齢化などによる高い需要・市場性に支えられており、手術用ロボットの導入によって効率化・コスト削減を実現できる可能性がある。「ロボティクスで支援できる手術技術に関しては、白内障手術はリストのトップにある」と彼は語った。
白内障外科医をテストに招き、技術と設計の改善に活かすフィードバックを獲得
ForSightは過去4年間、コンピュータビジョンと機械学習アルゴリズムを組み合わせたマイクロ手術用ロボットの開発に取り組んできた。ロボットのテストでは、著名な白内障外科医を招き、ヒトの顔の模型に豚の眼を設置して手術してもらうことでロボットの性能を評価している。豚の眼は人間の眼と非常によく似ているため、外科医の訓練にもよく使われる。
ネイサン医師によると、同社のロボットは第3世代に達しており、豚の眼に対する試験手術は約300件に及んでいるという。ForSightは、白内障の外科医を現場に招くことで、技術と設計の改善に活かすフィードバックを得ている。また、手術は常に医師が介在して行われている。
この分野の治療はロボティクスが引き継ぐしかない、人間の力だけでは不可能だ
ネイサン医師は、今年後半に臨床データの収集を開始して、規制当局による承認のもと「今後の数年以内」の商業化を目標としていると述べた。Eclipseのウィンターロスは、今回の調達によってFDAの承認プロセスを乗り越えるための資金は確保できたと語った。
ForSightは、長期的にはインドのように人口が多く、白内障手術を必要とする患者の数と医師の数とのギャップが特に大きい国々での展開に加え、網膜手術や緑内障の治療、さらには熟練医師にしかできないような複雑な手術にもロボットを活用できると見込んでいる。「この分野の治療はロボティクスが引き継ぐしかない。人間の力だけでこのギャップを埋めることは不可能だ」とネイサン医師は語った。