白内障の手術は、世界で最も一般的な医療処置のひとつで、米国だけでも毎年400万件以上が行われているものの、この手術を行える医師の数は不足している。イスラエルのスタートアップForSight Robotics(フォーサイト・ロボティクス)は、ロボット技術でこの課題を解決し、最終的に人間の医師よりも優れた手術をより安価に実現することを目指している。
ForSightは6月24日、同社のロボットプラットフォーム「オリオム(Oryom)」の拡大に向けて、Eclipse Ventures主導で1億2500万ドル(約180億円。1ドル=144円換算)を調達したと発表した。ForSightによると、オリオムは白内障や他の眼疾患に対応する世界初のプラットフォームだという。手術用ロボットの新興企業におけるシリーズBの投資金額としては過去2番目の規模とされ、ForSightの累計調達額は1億9500万ドル(約281億円)に達した。
VCデータベースのPitchBookによれば、今回の調達で同社評価額は推定5億ドル(約720億円)となっており、2022年資金調達時の評価額1億6200万ドル(約233億円)から大きく増加した。今回のラウンドの出資には、手術用ロボティクスの先駆者インテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical)共同創業者のフレッド・モルも参加した。彼は、ForSightの戦略アドバイザリーボードにも加わった。
今年後半、人間の患者に対して初の完全なロボット手術を実施予定
ForSightはこれまで豚の眼を使いロボット手術をテストしており、今年後半には人間の患者に対する初の完全なロボット手術を実施する予定だ。米国をターゲット市場としているため、米食品医薬品局(FDA)と初期段階の協議も進めている。ForSightのロボットは、白内障手術向けでは初となるが、ロボット手術そのものは、インテュイティブ・サージカルの手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ(Da Vinci)」が25年前にFDAの承認を受けて以来、ますます一般的になりつつある。
当初脅威に感じる人がいたが、今では最高の結果をもたらすと受け取られている
ForSightの共同創業者で、社長兼最高医療責任者も務めるジョセフ・ネイサン医師は、「当初人々は、ロボティクスの進歩に脅威を感じていたが、今ではこのテクノロジーこそが最高の結果をもたらすものだと考えている」とフォーブスに語った。
白内障の手術は、外科医が濁った水晶体を人工レンズに置き換えるというもので、通常は15分未満で完了するという、非常に短い時間の処置とされる。この手術は小さな空間で作業するため非常に緻密な作業が必要だが、反復的な性質や出血を伴わない点で、ロボットによる対応が比較的容易ともいえる。
「私たちは、ロボティクスを用いて新たなレベルの眼科医療を行っている。人間の眼球の構造は、年齢や人種に左右されないため、白内障の手術には毎回同じ手順が適用可能だ」とネイサン医師は述べている。
眼科医不足の深刻化と、手術で視覚障害や失明を防げる患者の急増
世界保健機関(WHO)のデータによれば、予防可能な視覚障害や回避可能な失明を抱えている人の数は、世界で10億人以上に達している。しかし、人口100万人あたりの眼科医の数は32人で、白内障の手術医の数は100万人あたり14人しかおらず、非常に多くの人が治療を受けられないでいる。
ネイサン医師によれば、このギャップは今後さらに深刻になる見通しで、眼科医の数が減少している中で、失明を防ぐための手術需要は急増しているという。