バイオ

2025.06.15 09:15

デキる鳥は脳で選ぶ。指導者にしたい相手を見分ける扁桃体の機能

Getty Images

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鳥のなかには、幼いときに大人の鳥のさえずりを模倣学習して、次世代に伝えていく種類がある。その代表がキンカチョウだ。キンカチョウは大人の鳥とマンツーマンなぬトリツートリで歌を習い、繰り返し練習して習得する。その先生は自分がこの人に教わりたいと感じた特定の一羽だ。ではなぜその先生を選ぶのか、早稲田大学の研究から特定の脳の部位が関与していることがわかった。

スズメの仲間のキンカチョウは、いわば先祖代々伝わる歌という文化を伝承する鳥だ。早稲田大学文学学術院次席研究員の藤井朋子氏らによる研究チームは、キンカチョウの社会性と模倣学習との関係に注目して、どのように先生を選ぶかを実験で確かめた。

正常な幼鳥は全員が短期集中型の先生を選び、先生とそっくりの歌い方を覚えた。
正常な幼鳥は全員が短期集中型の先生を選び、先生とそっくりの歌い方を覚えた。

キンカチョウの歌には個性の違いがある。そこで大人の鳥と幼鳥を1対1で3日間過ごさせ歌を習わせた。また次の3日間は別の大人の鳥から歌を習わせた。こうして模倣学習を終えて獲得した歌を分析すると、それは両方の先生の歌のミックスではなく、いずれかの先生の調子で覚えていることがわかった。そして、選ばれる先生の特長を調べると、1回あたりに歌う時間が長く、歌う回数が少ないこともわかった。つまり、「短期集中型」の指導をしてくれる先生が人気だったということだ。

扁桃体損傷の幼鳥は両方の先生の歌を習い、習得した歌から先生の歌の特長を判別するのは困難だった。
扁桃体損傷の幼鳥は両方の先生の歌を習い、習得した歌から先生の歌の特長を判別するのは困難だった。

またこの実験により、キンカチョウが先生を選ぶ際に、脳のなかで情緒や社会性の制御を行う「扁桃体」という部位が深く関わっていることもわかった。扁桃体は、危険を素早く察知して身構えるなど恐怖に敏感に反応したり、怒りや不安といったおもにネガティブな感情のコントロールを行うとされている。最近では、社会的認知や価値の評価といった機能があることもわかってきている。あの歌を習いたいと思い、その鳥に師事するというのは、社会性の表れと言える。

研究チームはそれを検証すべく、扁桃体を人為的に損傷させた幼鳥に歌を習わせた。正常な幼鳥は、どの大人とも仲良くしたいという社会的欲求を抑え、「習うべき歌を備えた先生」に対してだけ社会的欲求を高めるという。まずはその鳥の歌を聞いて、この先生に習おうと決意してから接近するのだが、扁桃体を損傷した幼鳥は、どの大人にも近づいてしまうか、近づこうとして往復運動を行う。反対に、本来習うべき短期集中型の先生の歌を聞いても、近づこうとしなくなる。標準的な幼鳥の100パーセントが選んだ先生を、扁桃体損傷の幼鳥が選んだ割合はわずか37.5パーセントだった。

この研究成果は、鳥に限らず文化の伝達には扁桃体が重要な役割を果たしていることを示唆するものだ。扁桃体はまた「文化伝達の方向性を制御している可能性」も示唆しており、私たち人間が次世代に伝える文化や文明を、どのように選んできたかの理解につながる可能性があると研究チームは話している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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