今の飲食店は「味以外に『入店前に選ばれる理由』を作る必要に迫られている」と指摘するのは生活者の"選ぶ瞬間"を分析し続けてきた元・電通プランナー、小島雄一郎氏。比べて、迷って、後回しにして、決めきれない。私たちの周りにモノやサービス、情報、体験、人が溢れる中で、そんな「選択疲れ」が、広がっています。
「選択疲れ」の時代にモノ・サービス・人間関係まで含めた「選ばれる構造」をマーケティング・心理・社会の視点から解いた小島氏の著書『「選べない」はなぜ起こる?』(サンマーク出版)から、一部引用・再編集してご紹介します。
食べる前に判断されるようになった飲食店の苦悩
あなたが最後に「勘」だけでレストランを選んだのはいつだろうか?
店の前を通りかかり、「なんとなく良さそう」という直感だけで入店したのは?
おそらく、その記憶は遠い過去のものになりつつあるはずだ。なぜなら、私たちは今や「食べる前に判断する」という新たな儀式を毎回行っているからだ。
日常に潜む「選べない」ケースとして、飲食店選びは特に顕著だ。
しかし、飲食店はその数自体が大幅に増えているわけではない。選択肢が増えていないのに、なぜ「選べない」が起きているのだろうか?
その理由は、私たちの脳を麻痺させるほどの判断材料の増加だ。現代は選択肢インフレーション社会であるのと同時に、判断材料インフレーション社会でもあるのだ。
判断材料とは、いわゆる口コミなどの評判情報のこと。
食べログやGoogleマップ、SNSなどの普及により、飲食店を選ぶ際の判断材料となる口コミの量は爆発的に増加した。
今となっては信じられないが、食べログやオープンテーブルなどの口コミ型グルメサービスが普及する2005年以前、飲食店は扉を開けるまで実態がわからないものだった。今の言葉で言えば、ランダム性の高い「ガチャ」のようなもの、それが飲食店だった。
それが今では、扉の向こう側が事前にわかる。Instagramで料理画像や店内の様子を確認できるし、TikTokでは動画も見られる。味の評価は食べログで確認できるし、Googleマップではネガティブな口コミもチェックできる。
「入店前の想像と違った」という事態を回避する意味では便利になったが、回避する作業が必須になったとも言える。つまり以前に比べて飲食店選びに、より多くの時間と労力をかけなければいけなくなったのだ。