テクノロジーと戦略的なM&Aを活用して顧客の成長を後押しするNXグループが、グローバル展開を加速させている。
NIPPON EXPRESSホールディングス社長の堀切智がその狙いを語る。
近年、パンデミックによる港湾の閉鎖、ウクライナでの紛争、さらに米国による関税の脅威などにより、グローバル・サプライチェーンは大きな試練に直面してきた。そうしたなか、物流企業は、必要な物資をオンタイムで届けるために、縁の下でサプライチェーンを懸命に支えている。
その一翼を担うのがNXグループだ。国際貨物業界における世界トップ5の地位を目指す同グループは、最先端のテクノロジーや戦略的M&Aを活用し、存在感を高めている。NIPPON EXPRESSホールディングス社長の堀切智が、グローバル市場での成長戦略について語った。
信頼と技術革新を土台に
NXグループの中核企業である日本通運の設立は1937年だが、そのルーツは1872年に遡る。日本が近代化を急速に進めていた時代、鉄道などの輸送会社を統合して設立された「陸運元会社」が源流で、当初から複合輸送を強みとしていた。
以来、おもに企業間物流を中心に日本の国内外で事業を拡大。きめ細かで柔軟な対応力が評価され、モナリザやミロのヴィーナスなどの美術品を世界中に輸送した実績も有する。
日本通運は、2023年の日本の航空輸出の約4分の1を担い、世界的に見ても、航空貨物の取扱量が8位で海上貨物の取扱量が6位、総合力でも6位にランクインしている(Armstrong & Associates, Inc. A&A’s Top 25 Global Freight Forwarders List)。
「私たちの強みは、アジアにおける圧倒的なプレゼンスです。世界の貨物の60〜70%がアジア発であることを踏まえると、日本を中核に据えた体制には、大きな優位性があります。また、フォワーディングとロジスティクスを組み合わせたアカウントマネジメントにより、柔軟に対応できることも強みです」と堀切は語る。
この強みを支えているのは、最先端テクノロジーの導入だ。
リアルタイムでの貨物トラッキングや、温度や衝撃のモニタリングなどをデジタルで提供する仕組みをはじめ、倉庫の自動化や、ロボットやAIの活用を進めている。
最新の取組みとして、遠隔・自動・手動の切替が可能なフォークリフトの開発や、自律走行搬送ロボット(AMR)によって、荷物を積み込み場所まで自動で運搬する仕組みを整備するなど、生産性向上に向けた取組みも加速している。

テクノロジーの導入は、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進するためでもある。
「私たちは『誰にもやさしい倉庫(NX Universal Harmonious Work Warehouse)』という実験的なプロジェクトも始めています。これは身体的な特性に関わらず、誰もが働けるよう、近距離モビリティなどを取り入れた倉庫で、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる職場環境を目指す第一歩です」
こうした技術革新によって、物流効率も大きく向上。NXグループは、より高品質なサービスを提供できる体制を整えている。

M&Aの活用で顧客の成長を後押し
NXグループは現在、半導体、医療、自動車などの主要産業に注力し、57カ国、300社以上、7万8,000人超の従業員を擁する企業グループとなっている。
過去10年にわたって同グループは、顧客本位の姿勢を重視しながら、同じ信念をもつ企業をグループに迎え入れてきた。そうすることで、より大きな価値を生み出す体制を築いてきたと堀切は語る。
「単なる規模の拡大ではなく、顧客が新たな市場へ進出する際のサポートをすることが目的です。M&Aにより輸送手配における購買力が向上し、ケイパビリティも広がり、より多くの課題に対応できるようになりました」
一例を挙げると、欧州東部へのネットワーク拡大と日本国外の顧客基盤の獲得の一環として、2024年にオーストリアの物流会社「cargo-partner」を買収した。1983年設立の同社は、航空・海運フォワーディング事業を中心に、鉄道・トラック輸送やコントラクトロジスティクス事業も展開している。

「中東欧地域に強固なネットワークをもつcargo-partnerの買収には、大きなシナジーが期待できます。互いに異なる顧客基盤をもつことによる高い補完性、貨物の集約による効率向上、バックオフィスの共有などの実現も可能です」
また、競争力と効率性のさらなる強化を目的に、2025年にはドイツの物流企業「Simon Hegele」を子会社化した。1920年設立の同社は、ヘルスケア業界向けにサービスを提供し、欧州、米国、南米、アジア、オーストラリアで2,800人以上の従業員を擁している。同社の買収もシナジー効果が大きいと、堀切は期待を込める。
「Simon Hegeleは、専門性の高い物流プラットフォームを活用しながら着実に顧客基盤を築いてきました。EU域内での医療関連輸送に強みをもち、当社のフォワーディング機能と統合することで、輸送から医療機器の設置まで、一貫したサービスを提供することができるようになります。cargo-partnerもSimon Hegeleも顧客第一主義の企業であり、企業文化が私たちと非常に似ています。我々が日本で培ってきた品質とサービスは、海外の企業にもきっと歓迎されるでしょう。最近では、日本国内で当社のサービスをご利用いただいた海外企業がその品質を気に入り、ほかのエリアでも利用したいという声をいただいています」
NXグループは、日本ならではの細部へのこだわり、緻密な物流、革新的なEnd to Endのソリューションを生かし、より多くの海外企業を支援しようとしている。それには、テクノロジーと予期せぬ事態への対応力が不可欠だ。
顧客本位の姿勢を貫く
地政学リスクにより、ロシア上空の飛行や紅海の航行が困難になるなど、物流におけるリスクは絶えない。また、紛争地以外でも、突如として特定の国で規制が強化されたり、災害によって交通網が寸断されたりすることもある。物流はグローバルな産業であり、常に不測の事態がつきまとう。それを想定したうえで最善策を講じることこそが、NXグループの真骨頂だと堀切は力説する。
「私たちの企業メッセージ『We Find the Way』は、そうした困難を乗り越え、それぞれの顧客に最適な解決策を提供するという強い意志を示しています。私たちは、どんな課題にも正面から向き合い、最善の輸送手段を見つけ、最後までやり遂げる。この“顧客本位 ”の姿勢こそが、NXグループのグローバル成長を支え、高品質なサービスの提供を可能にするのです」
