アプリの終わりは近いのか。ある意味ではそうだと、スタートアップ企業Adopt AI(アダプトエーアイ)の創業者ディーパック・アンチャラは考えている。もっとも、アプリそのものが不要になるわけではない。アンチャラによれば、アプリは消費者にとっても企業にとっても依然として重要であるが、ユーザーが直接アプリを操作することはなくなる可能性が高い。代わりに、AIエージェントを用いてアプリを制御し、主要な作業をこなすようになるというわけだ。
AIエージェントに「何をしたいか」と意図やタスクを伝えるだけ
「私たちは、アプリがバックグラウンドで動作し、ユーザーはAIエージェントに『何をしたいか』を伝えるだけで済む世界を想定しています。新しいアプリケーションの機能やワークフローを学ぶために時間を浪費する必要はありません。使っているすべてのアプリを、ひとつのインターフェースで自然言語を使って操作できるようになるのです」。
これは、現在の状況から大きくかけ離れた話ではない。すでに多くのユーザーが、マイクロソフトのCopilotのようなソリューションを利用している。これはマイクロソフトのアプリ内に搭載され、AIアシスタントとしてユーザーの操作を支援する。ガートナーの調査によれば、このようなAIエージェントを搭載したソフトウェアアプリケーションの比率は、昨年の1%から2028年までに33%に増える見込みだ。
だが、そうしたエージェントをアプリの外へ完全に切り離せるとしたらどうだろうか。アンチャラは、Slackのようなワークプレース向けツールの中で、単一のAIエージェントが稼働する未来を思い描いている。かつては複数のアプリを使い分ける必要があった業務が、ひとつの場所でひとつの指示を出すだけで完結するようになる可能性がある。
現在、Adopt AIのビジネスは主にアプリ開発者向けのAIエージェント構築に基づいている。エージェンティックAI(自律型AI)の専門知識を社内に持たない企業でも、自社のソフトウェアにCopilotのような機能を組み込めるようにするわけだ。しかしアンチャラは、将来的にさらに大きなビジネスチャンスとして、複数のアプリを横断して動作できるAIエージェントが鍵になると見ている。
シード資金調達ラウンドで約8億7000万円を調達
投資家の関心も高まっており、Adopt AIは米国時間5月13日、シード資金調達ラウンドで600万ドル(約8億7000万円。1ドル=143円換算)を調達したと発表した。リード投資家はElevation Capital(エレベーション・キャピタル)で、Foster Ventures(フォスター・ベンチャーズ)、Powerhouse Ventures(パワーハウス・ベンチャーズ)、Darkmode Ventures(ダークモード・ベンチャーズ)、そして複数のエンジェル投資家が参加している。
Elevation Capitalのパートナー、クリシュナ・メーラは次のように述べる。
「アプリケーションがユーザーとどのように関わるかについて、変革的なシフトが起きつつあります。インテリジェントなAIエージェントをアプリに組み込むことによって、業界を超えたユーザー体験の再定義が可能になるでしょう」。