チームの力を増幅させるタイプのリーダーは、文化、戦略、戦術のレベルにおいて、チームの能力や目標達成力、士気を向上させる。このようなチームでは、メンバーそれぞれが単独で仕事をするよりも、チームとして仕事をする方が、優れたパフォーマンスを発揮する。最も高いレベルになると、こうしたチームは他のチームの能力や目標達成力、士気までも向上させるようになる。他のチームを含む全体を1つの組織としてとらえ、コミュニケーションを取り、機能するからだ。
このような効果は、ある次元では「スキルズ・プラスマイナス」(Skills Plus Minus:バスケットボールにおいてコート上の相乗効果を評価するための枠組み)と、その枠組みで分析されるようなチームの力と同様と考えられる。つまり、チームメンバーの態度や人間関係、行動の要素において、互いが互いを補完することで生まれる力のことだ。
しかし全く別の次元、とりわけ組織全体を構築する場合においては、そうした枠組みには適切なリーダーが必要となる。
書籍『米海軍特殊部隊(ネイビー・シールズ)伝説の指揮官に学ぶ 究極のリーダーシップ』(邦訳:CEメディアハウス)のなかで、著者のジョッコ・ウィリンクとリーフ・バビンは、ネイビー・シールズの訓練「地獄週間(ヘルウィーク)」において、成績首位のボートと最下位のボートのリーダーを交換したエピソードを紹介している。
リーダーを交換したところ、それまで最下位だったボートが首位に立ち、それまで首位だったボートも、新たに首位に立ったボートとほぼ互角の成績を維持した。この教訓は、強力なリーダーが持つ即時的な影響力と、持続的な影響力を示している。
ジョン・ホールは、軍事とビジネスの分野でチームを率いた経験を持つ人物だ。ネイビー・シールズの小隊指揮官を務めた後に産業界へ身を転じ、テクノロジー企業のVoxtec International(ヴォックステック・インターナショナル)のCEOと、車両管理のソフトウェアを手がけるPlatform Science(プラットフォーム・サイエンス)のCOOを務めた。ホールは筆者との対話や、「力を増幅させるリーダーシップ」をテーマとした記事のなかで、自身の見解を共有している。
彼の基本的な考えは、力を最大限に増幅させるリーダーは個人ではなく、サーバント・リーダーシップ(自らが他者に奉仕することで組織を導くリーダーシップのスタイル)を備えたチームの形を取る、というものだ。すなわちその力は、単数形ではなく複数形の中にある。
サーバント・リーダーが個々に発する最初の問いは、「私はどうすれば手助けができるか」だ。しかし彼らは個人レベルで物事を考えない。そこでサーバント・リーダーシップを備えたチームとして、第2の問い「私たちはどうすれば手助けできるか」を発する。
ここでいう「私たち」とは、それぞれ異なる専門性を持ちながら、他者への奉仕に向けた「協力とコミットメントの集団的態度」を共有する人々の集まりのことだ。彼らは、チームとして考え、チームとして行動し、チームの成功について語る。チームとして仕事をする方法を常に改善する。
さらに、最高レベルで機能するチームは、次のような第3の問いを発する。「他に誰を手助けできるか」「他の誰に知らせる必要があるか」「他に誰が影響を受けるか」「私たちの行動や学びから、他の誰が利益を得られるのか」
これらはすべて、コミュニケーションと調整に関する問いだ。つまり情報や戦術、知見、標準的な作業手順の改善策を、組織全体と共有することに関する問いだ。それこそが、組織の力を増大させる究極の要因となる。